COLUMN 体と心 2019.01.22

禅とマインドフルネスとの比較(1)

1. マインドフルネスとは



 「意図的に“今”の瞬間に注意を向け、判断や解釈をしない心の状態」(日本マインドフルネス学会)と定義されるマインドフルネスは、ジョンカバットジンのマインドフルネスストレス低減法により始まったものです。仏教を源流とし、仏教の思想と瞑想をもとにして構成されたマインドフルネス瞑想のプログラムが実践され、その瞑想法は、テーラワーダ仏教の瞑想技法が色濃くみられます。さらにマインドフルネスは、マインドフルネス認知療法、アクセプタンス&コミットメント・セラピー、弁証法的行動療法などの心理療法にも取り入れられ、これまでの臨床心理学の介入法に新たな視点を持ち込んだものとして、第3世代の認知行動療法と呼ばれています。近年、アメリカを中心に高い関心を集め、ストレス低減やうつの再発予防など、多くの成果を残しており、その効果は科学的にも証明されています。また、臨床心理学的介入にとどまらず、集中力や生産性の向上を目的に、有名企業ではマインドフルネスプログラムが導入され、社員研修を行っています。そして、多くのメディアで特集が組まれるなど、社会的ブームをもたらしています。日本においても、日本マインドフルネス学会が創設され、マインドフルネスの研究が積極的に行われてきており、マインドフルネスがメディアで取り上げられることが多くなってきました。

 心理療法としてのマインドフルネスが、社会的に大きく貢献していることは、多くの臨床成果と科学的証明によって示されています。そして、その源流に東洋的思想があり、仏教を源流としていることも事実であると言えるでしょう。実際、ジョンカバットジン自身も、マインドフルネス瞑想は、禅をはじめとする仏教の影響を受けており、特に曹洞宗の祖、道元からの影響が大きいと述べています。  このようなジョンカバットジンの言葉から、マインドフルネスに触れた人々は、マインドフルネスは禅であると考えるかもしれません。そして、マインドフルネスを習得することは、禅を習得したことと同様であると考えてしまうのは、ある意味では必然なのかもしれません。事実、私の身近な人の中にも、マインドフルネスは禅であると考えている人が少なからずいます。では、果たしてマインドフルネスは禅なのでしょうか?マインドフルネスと禅との比較、特にジョンカバットジンが大きな影響を受けたと述べている曹洞禅との比較を通して、その相違に触れてみたいと思います。

(つづく)

体と心チーム 文学部 小室央允

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