禅の歴史 ― 曹洞禅の源流を尋ねて(11)
鏡島元隆博士「禅学概論講義ノ-ト」より
達磨(だるま)から五祖弘忍(こうにん、ぐにん)に至るまでの初期禅宗において、インドから伝えられた禅は次第に中国に根を下ろし、中国禅として形成されていったのである。この初期禅宗において最も注意すべきことは四祖道信(どうしん)が雙峰山(そうほうざん)において500人の門下を育成し、五祖弘忍が同じく雙峰山において700人の門下を育成したことである。このことは禅宗の歴史にとって画期的なことである。それは禅宗の生活様式がインド的なものから中国的なものへと一変したことを意味するのである。
達磨から三祖僧犧(そうさん)に至るまでの禅宗の祖師は、インドから伝えられた生活様式を守っていたのである。すなわち、これらの祖師は少人数の弟子を引き連れて各地を廻り歩いていて、いずれの土地にも定住しないで托鉢生活をしたのである。しかし、500人あるいは700人の大衆がこのようなインドから伝えられた生活様式を守ることはもはや不可能である。
ここにおいて、四祖道信や五祖弘忍は雙峰山に定住し、ここで自給自足の生活を営んだのである。これがために雙峰山では寺院自身が農場を持ち、寺院自身が精米所を持ち、耕作から栽培、収穫、製粉、炊事に至るまですべて他人の手を借りないで自分たちの手で行なうようになった。このことはインド伝来の仏教の伝統に対しては革命的なことである。インド仏教の伝統では、僧侶は労働することを禁じられていたのである。しかるに、四祖道信、五祖弘忍に至って、禅宗の生活様式がインド的な生活様式から中国的な生活様式へと一変したのである。
(つづく)
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